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Komaについて

Screenshot of Koma

※ このテキストは、プログラミングやオープンソースソフトウェアにあまり親しみのない映像関係者の方に向けた解説です。

Koma(コマ)は、ブラウザで動作する1オープンソースのコマ撮り撮影ツールです。特別なインストールが不要なため、誰でも簡単に使い始められます。

このツールは映像作家の橋本麦個人によって2023年10月から開発されています。僕自身のコマ撮り制作と並行して必要に応じて機能を追加しているため、実際の案件での実用に耐えうる安定性、信頼性はまだありません。

📷 現在サポートされているカメラ

  • Panasonic LUMIX
  • Ricoh Theta
  • Sigma fp / fp L
  • Webカメラ
  • タブレットやスマホ内蔵カメラ

🎨 機能

💪 まだサポートしていない機能

  • 撮影コマのコピー、長さの調整
  • 動画書き出し

Komaの開発ログは、Xにハッシュタグ: #koma_appで投稿しています。同時に制作しているビデオの進捗も混じってはいますが、大まかなアプリの完成度は感じてもらえるかと思います。

要するにどうしていきたいの?

コマ撮りのためにはいくつか知られた有料ツールがありますが、その多くが企業によって開発されています。そのため、そのプロジェクトに必要な機能を追加したり、新しいカメラやモーションコントロールシステムを使うには、開発元にリクエストし、アップデートを待つ必要があります。一方でツールがオープンソースであることの利点の一つは、少なくとも理論上は、そのツールを好きなように改変して使うことができるということです。もちろんそこにはWebプログラミングへの理解が必要なため、いち映像制作者が制作の傍らツールをちゃちゃっと改変するというのは、まだ難しいことではあるのですが4

Koma、しいては僕が開発している他のプロジェクト5を通して実現したいのは、コミュニティによる制作ツールの内製化です。ちょうど3DCGツールのBlenderを思い出してもらうと分かりやすいかもしれません。元々Blenderは有償ソフトでしたが、2002年に開発会社が倒産すると、開発者のTon Rozendaal氏は募金を募りソースコード(設計図)を買い戻し、非営利財団の管理下でオープンソースとして公開しました。それ以来、プロダクション、研究者、在野のアーティストなど、世界中の有志からの資金面、技術面の貢献のもと開発が続けられています。分野を越えた協働やその開発の速さにより、特にVersion 2.8以降は使い勝手が飛躍的に向上し、近年ではVFX業界のみならずアニメ業界からも注目されています。『エヴァンゲリオン』の制作で知られるカラーも、Blender財団に出資するとともに、主要な3DCGツールとして採用したというニュースは記憶に新しいかと思います。

ツールがオープンソースであることが全てにおいて良いとは限りません。例えば、同じブラウザベースのデザインツールであるFigmaは、スタートアップ企業として多くの出資を受け、優秀な開発者やデザイナーをフルタイムで雇い入れることにより、5年という驚異的な速度でUI/UXデザインツールにおける最大シェアを誇るようになりました。一方で、多くのオープンソースプロジェクトは個人のボランティアによって維持されていますが、たとえ多くの企業がこれらのプロジェクトの恩恵を受けていても、その利益が開発者に直接還元されることは稀です。このことは有名なライブラリの開発者がボイコットに至ったことが議論を呼ぶなど、オープンソースプロジェクトを持続可能なものとする上でかねてから問題として指摘されています。もちろん僕自身もGitHub Sponsorsを通じた投げ銭を除いて、開発自体に対する直接の報酬は受け取っていません。プログラマー向けのライブラリの場合、その使い手は潜在的な貢献者になる可能性がありますが、制作ツールの開発と使用には異なるスキルセットが求められるため、ソフトウェアのオープンソースプロジェクトが享受するような共同開発の恩恵を受けるのはより難しいのかもしれません。

それでもなお、制作者にとってはツールがオープンソースであることは大きな利点です。その一つは、市場のニーズを越えて、制作者それぞれが独自の手法やスタイルにあった機能をツールに(可能性としては)自由に追加できるところにあります。さらに、プロダクションにとっても、ライセンス費などのコストを削減することができ、組織を超えて研究開発の協働が可能となります。また、その販売だけで収益を得るツール開発会社に比べて、制作者コミュニティによる共同開発は、結果的に開発コストを抑えることにも繋がります。資金面では先述の通り様々な難しさはありますが、Blenderの例のように、余裕のある企業や個人がより多く支払い、初心者やインディー領域の作り手が手頃な価格でツールにアクセスできる状況を生み出せれば、創作文化としても理想的といえます。

コマ撮りという狭い分野ではありますが、「コミュニティによる制作ツールの内製化」を推し進めるべく、無理のないペースで開発を進めて行きたいと考えています。もし開発や支援に興味を持ってくださる個人や企業の方がいらっしゃれば、お気軽にお問い合わせください。


Footnotes

  1. 現在はChrome最新版(Version 119)のみで動作確認をしています。

  2. ブラウザはVive Trackerとの直接通信をサポートしていないため、専用プログラムをバックグラウンドで走らせておく必要があります。

  3. ブラウザはDMXの直接送信ができないため、OSCからArtnetに変換するプログラムを用意する必要があります。現状、僕の環境では簡単なTouchDesignerプログラムを用いています。

  4. ユーザーがいい感じにツールを調整できるような機能やシステムは、ヒューマン・コンピューター・インタラクション分野ではend-user develpment(エンドユーザーによる開発)、malleable systems(順応性のあるシステム)などと呼ばれています。僕がこれまでに開発した多くのツールはそうした「機能をつくるための機能」を実装しています。

  5. この数年でいうと、Glisp, Programmable Pen Tool, Programmable Raster Editor, ISF4AEなど。